沖縄人のごく日常的カルチャーショック。

 

うちなー的沖縄

沖縄人のごく日常的カルチャーショック。

那覇市内の食堂でのことばのだが、客は明らかに沖縄の人間ではなかった。会話はサッカーの試合のように、ハーフタイムを挟んで前後半に分かれていた。まずは前半の攻める客と防御の店員の会話。「ざる一枚」

「はーっ!?ざつをですかぁ、ざるを一枚ですかぁ」

「ざる、ざるそば一枚、だよ」

「・・・・・!?ざるそば一つのことですかぁ」

「・・・・・」

店員さんは、<はじめからそう言えばいいのによ>という表情があり。客は少しムッとしているようだ。下手をするとざるそのものを出されかねないような会話であった。

攻めあぐねる客、守りに不安な店員だった。続いて、攻守ところを変えての後半戦。サポーターたちは自分の注文した品を食べつつも、どこかで乱闘シーンを期待している「そば湯、ね」「はーっ」「そば湯、そば湯をくれ」店員は小首をかしげながらお茶を運んできた。ややムッとした客は、「そば湯だよ、そ、ば、湯!」「そば・・・・ゆ・・・・ですかぁ。何ですか、そばゆって」「そば湯を知らないの、あきれたなぁ。もういい!」客は心底からあきれたような顔をして店を出て行ったが、店員はその三、五倍くらいにあきれた顔をして、<変な客>という表情で客の後姿を見送っていた。

沖縄の食堂のメニューの特長は、とにかく品数が多いということだろう。極端な食堂ともなると、壁一面どころか壁二面にメニューがあふれ、ついには壁三面という過激な食堂もあったりする。どの席からも見れるようにということなのか、同じメニューが顔を並べている場合もある。壁のメニューがインテリアになっていたりする。

沖縄ものだけにこだわればいいのだろうが、客のニーズに応えるためにと準備されたのが、ざるそばであったりするわけだ。沖縄では、そばと言えば沖縄そばのことであり、本来の蕎麦ではない。

永年にわたって沖縄そばに慣れ親しんできた沖縄人の悲劇的は数多く存在している。東京あたりに初めて出掛けた沖縄の人間の失敗談は、このコーナーの分量からしたら、おそらくは数十回分に及ぶことになるだろう。電車に向かって手を挙げて停車を促した人。電車内で降車ブザーを必死に探した人。古くは洗濯ひも時代の頃のバスを想定して壁をまさぐった人。大阪での「指切り注意」という電車ドアの表示に心の底からしびれるようにして恐怖した人。