沖縄的台風

 

うちなー的沖縄

沖縄的台風

暑い日が続くが、その暑さもそろそろ後半にさしかかってきた。

後半というからには前後半の基準があるはずなのだが、はっきりしない。

お盆を中心として、「暑中お見舞い」という葉書の書き方があるくらいだから、

それも一つの分け方だろう。ところが沖縄は例外なく旧暦で盆を迎えるので必ず

しも当てはまらない。そもそも沖縄における季節感というのは新暦より旧暦がぴったりである。年末頃にやたらと暑いなと思ったら、実は旧暦では十月でしかなかったという感じなのだ。

そこで強引に分かれる基準として台風というのを思いついた。

南太平洋で発生した台風は、やがて勢力を増して沖縄あたりでピークに達する。沖縄までは割とノロノロ運転で、過ぎたころから一気呵成にスピードを増してくる。

猛威を振るう台風なのだが、その発生元は実に可愛いものだ。台風を人間の大人の身長くらいに例えれば、台風の元は胎児くらいではないだろうか。台風の元は見たことはないが、モンスーンの元はみたことがある。

赤道の、まだ向こうの小島でみかけたモンスーンの発生は、風が微妙に吹いて、椰子の葉がサラサラと揺れた。ただ、それだけだった。人々はそれで季節の、一つの区切を感じる。ところで沖縄でも台風の感じ方ってものがある。

衛星の発達した現代では、台風の発生から近づいてくる様子、さらに規模に至るまで総てが手にとるように解る。それでも皮膚感覚があって、人々は台風の襲来を予感する。風が生暖かいのである。2,3、日前から南風が妙な、肌にまとわりつくようにして吹いてくる。それでもって台風が近づいていることを実感するわけだ。

経験というのは凄いことで、ベテランの漁師あたりにあなると、あらゆる天候を

予知することができる。

これは実際にあった話だが、ある老人漁夫が沖縄の「復帰」に伴う法整備の中で

体験したこと。「復帰」前までは、琉球政府の法律が適用されていたから、あれも駄目これも駄目というようなものではなく、ある意味ではかなりアバウトな法体系があった。それまで必要でなかったことが「復帰」でもって漁師といえども小型船舶免許が必要となった。しかし、そこは既得権みたいなもので、対象者全員に免許を与える仕組みであったらしい。

ところが試験は試験である。テスト問題は簡単だったらしいのだが、とにもかくにもペーパーテストは実施された。困ったことに老漁夫は文盲であった。出題された文字がさっぱり読めない。これではテストにならないと、試験官は問題を代読して

出題を告げた。

「もし舟が沖に出て急に風が吹いてきたらどうしますか、おじいさん?」

老漁夫は少し考えた。試験官は当然の回答を期待したはずである。おじいは、

首を約7度ほど傾け、おもむろに、そしてきっぱりと答えた。

「うんなばすねー、 初(はじ)みからわとーぐとぅ、海や歩(あっ)かん!」

こういう時には沖には出ない、海を歩かない、というのである。こででは方言を直訳しすぎるので、もう少し懇切丁寧に説明をしてみる。ベテランの漁師にとって、

明日の天候ぐらいは、前日の風向きやその日の雲の流れなどからして、舟を出す前から結論は出ている。俺はプロだから、沖に出て急に風が吹くかは、あらかじめわかっているわけさ。そういう時は最初から舟をださないわけよ、俺、プロだから。

台風の話であった。