重症急性シブイワタ症候群なんか怖くない。-2

 

うちなー的沖縄

重症急性シブイワタ症候群なんか怖くない。-2

酸っぱいシークヮーサーを全て食べ尽くすわけだから、地上に生還してくると、まるで酒に酔ったような症状になるらしい。うまり、酸味で酔って足元がふらつくのである。それでも、次のターゲットの木に登ったという。なにも食べるものがない時代であり、ほっておいて小鳥に食われるよりは自分が食べてほうがいいと考えたようである。

そういうこともあってか、わが家では胃腸に関しては屈強であると信じられていたバリ島に話を戻そう。安宿で死の淵をさまよっていた日は三日間にも及んでいた。ベットと便所を一日数十回も行き来をする。ケツの穴はヒリヒリしていた。辛いにもインドネシア式の、尾てい骨あたりに水を充て洗うことには慣れていたからどうにかよかったものの、とにかく死ぬほど辛かった。

最後は便所まで歩く体力すらも奪われて、便所の前で横たわっていた。全身素っ裸で、一枚の布をかぶるだけであった。これまた実に情けない姿であった。

シブイワタ。これがどういう病気なのか。ワタとは腹のことである。シブイとは、絞るようなという意味がある。いずれも沖縄の言葉である。腹がねじれるような激痛を伴う症状で、早い話が下痢のととなのだ。赤痢は法定伝染病に指定されている急性の大腸疾患である。左下腹部に圧痛を感じ、連続的な便意を催す。便は粘着性、もしくはほとんど水状である。急性赤痢と診断されたらドキッとするのが、シブイワタに関しては普通の腹痛の、ワンランク上くらいの病気でしかなかった。周囲も「あっ、シブイワタだね。少し寝ていたら自然に治るさ」くらいなもので、本人の痛みとはかけ離れた見方しかされなくて、それほどの同情もされなかった。

バリ島でのシブイワタの話に戻る。ジャムというインドネシア独特の薬を服用したのだが、それを呑む際に、うかつにも再び水を呑んでしまった。おそらくは、いったんは沸かしてそれを冷ました水であったと思うのだが、心理的のもいよいよ腹具合はおかしくなり、七転八倒してしまった。

ジャム売りはジャワ人のおばさんが行商で売り歩いている。どうも多角経営をしているらしく、マッサージはどうかと訊いてくる。私は今にも死にそうで、マッサージどころではないのでと断るのだが、相手も商売人らしく必死に仕掛けてくる。人生最大のピンチなのに、非常に困ったおばさんであった。

今から考えると法定伝染病であるから隔離されても不思議ではなかったはずなのだが、そういうことにはならなかった。沖縄の人々には法定伝染病という認識をもっていなかったのである。

しばらくしたら治るさぁ、くらいなもので、とりたたて大騒ぎするようなものだはなかったようだ。いまだったら、ニュース扱いをされたことだろう。

大騒ぎしなかった背景には、日常的にシブイワタでバッタリゲーヤ―(七転八倒)する人が多かったということである。それでも死に至るケースはなかったらしく、例のシークヮーサー完全制圧男の父は、「ウチナーンチュは硬水で鍛えられているからシブイワタは病気のうちには入らない」と妙に自信を持って息子を慰めていた。